音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

D.キャナダイン著『イギリスの階級社会』

一コ前の記事(もう一か月経っちゃったか…)で、「なんで近代市民革命を最も早く成し遂げたイギリスで、「クイーン」のような王室万歳的な映画がいまだに作られ、しかも人気を得るのか」と書いたが、以下の本を読み、何かストンと腑に落ちた。

イギリスの階級社会

イギリスの階級社会

女王エリザベス二世の戴冠式(1953)を見た外国人にとって最も印象深かったのは、序列、伝統、ヒエラルキーといった観念であった。・・・結局、これが労働党指導者たちの理解したイギリスの姿であり、彼らがそのままであって欲しいと望んだイギリスの姿であった。労働者階級の運命の改善にどれほど献身しようと、アトリー(首相1945-51)も、ウィルソン(首相1964-70,1974-76)も、キャラハン(首相1976-79)も、彼らの言うところの確固たる不平等な社会的序列を転覆しようなど、まったく望まなかった。アトリーは、青年時代の固定的な世界秩序の信奉者であり、君主制、帝国、ヘイリーベリー校、貴族院の熱烈な支持者であった。・・・それは、王権と最古の騎士勲位に対してアトリーが抱いていた尊敬の念を共有していたウィルソンにも当てはまったし、さらに、貴族の爵位とガーター爵位を即座に受け入れたキャラハンについても当てはまった。pp.244-245

18世紀から今日に至るまで、イギリス人の多くが用い、かつ肯定してきた最も強力な社会観が、「君主を頂点としたヒエラルキーによって秩序立った社会」という見方であることが論証されている。面白いです。でもあくまで階級に対する人々の「認識」のあり方、主観的側面を扱った本なので、原題"Class in Britain"を『イギリスの階級社会』と訳すのは、ミスリーディングな気がする。