音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

超左翼マガジン「ロスジェネ」創刊号

ロスジェネ 創刊号

ロスジェネ 創刊号

刊行当初から気になっていて、ようやく本屋で見つけて買った。どの記事も考えさせられるものばかりで、充実していた。増山麗奈「戦争よりエロス―そして環境へ 桃色ゲリラの挑戦」の記事が特に良かった。

愛し合い、舐め合い、抱き合い、相手の精子が私の卵子と結合し、そこから10ヶ月たって新しい命が生まれる。それって最高のエロスだ。相手の細胞の一部が具体的に私の身体と溶け合う。毎日ハグしているうちに、すこしずつ相手の考え方や感じ方、価値観までだんだん溶け合っていく気がする。私の母乳が、子供の身体に入り、栄養素となって具体的に成長する。物理的に、他者の細胞が自分の一部になるという経験は、私の意識を変えていった。精子だけではない。考えてみれば呼吸や、食べ物を通して私は無数の世界と繋がっているのだ。私達は一人ではなかったのだ。たくさんの命を頂いて、なんとか生きさせていただいている。そんな当たり前の事に、どうして気がつかなかったのだろう。どんなにあがいても、否定しても、悩んでも私達はこの自然の一部であるのに。(pp.100-113)


なんかすごい。生きることの根源的な喜びのようなものが伝わってくる。このような思想をバックボーンにしつつ、増山氏はイラク戦争や食の安全、産業廃棄物、原発などの問題を論じていて、とても説得力がある。


ただし雑誌全体の問題意識には、やや違和感を持った。何より世代論で切っちゃって良いのだろうかという点。これを言っちゃ「ロスジェネ」という雑誌名上、おしまいなのかもしれないが。でも「超左翼マガジン」を自任して、かつ、「特集:右と左は手を結べるか」という問題提起をするのであったら、若者内の格差も問題にすべきだと思った。現に若者は、高齢者と並んで最も所得格差が大きい世代だと言うし。また世代を超えた雇用不安定層の連続性も考察すべきだろう。むしろそっちの方が、対ネオリベを考える上でも、世代論より本質的な問題かもしれない。ホームレスやシングルマザーについてのルポなどを読んで分かることは、いつの時代にも一定程度の低賃金不安定就労層が存在してきたということだ。世代を超えた経済的弱者の連帯をこそ、呼び掛けるべきではないだろうか?


あと冒頭対談で赤木智弘氏が「正規社員VS非正規社員」という対立の構図を強調していたが、労働者の階層構造はもっとグラデーションのようなもので、一定程度の若者は、正規雇用と非正規雇用の境界を、いったりきたりしているのではないかとも思った。そういう人にとっては、給料、やりがい、安全性、働きやすさ、人間関係、自尊のような要素の方が、仕事の選択上重要であって、あまり正規雇用/非正規雇用という区別は、重要だとみなされていないのではないだろうか。もちろん全体としてみれば、正規雇用/非正規雇用の待遇上の格差は大きいのは事実であるだろうが。この辺は労働社会学などの研究課題だろう。