音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

研究について、つれづれ

・チャールズ・ロックにつづきヘレン・ボザンケの救貧論を読んでいる。彼女の主著『民衆の力』(1903)はなかなかの名著だ。ここでも歴史家が批判的にロンドンCOSの原理としてきたものとはそぐわない「貧民を包摂する思想」をしばしば見出す。一次文献とじっくり向き合わないとこういうことは見えてこない。うまく論文としてこの夏中にまとめたい。

・ここ数年、COSの救貧論とならびイギリスの優生思想やT.H.グリーンの権利論やらも追っており、手を広げすぎとの見方もできるのかもしれないが、自分のなかでは問題関心として一貫しているつもりだ。つまり、あるマイノリティ性をもつ社会的カテゴリーを「市民」として包摂する言説と、逆に社会にとっての「危険な存在」として排除する言説の、せめぎあいの歴史を描きたいというのがここ10年ばかりの自分の研究関心となっている。そのさいとくに注目する二つのカテゴリーとして「貧民」と「障害者」に焦点をあてている。この二つに注目する理由は、近代以降、両カテゴリーを同時に包摂可能なものとする言説が、いまだあらわれていないからである。

・個人的な理由もある。今から10年前はちょうど博論を仕上げていた頃だが、この頃の研究関心は「労働貧民を市民として包摂する言説」に向けられていて、その代表例として二ューリベラリズムの政治・社会思想を研究テーマに据えていた。

しかし博論審査に合格した翌月生まれた第一子には、生まれつき重度の障害があった。このことがそれ以後の私の問題関心をかなり変えてしまった。子育てするなかで障害について自ずと考えるようになり、そのなかで障害者が社会から排除され、ときにはその命さえ抹殺された歴史を知ることとなった。このような出来事は、私の研究にも大きな影響を与えた。貧困とならび障害を、社会への包摂とならび社会からの排除の歴史を、自分の研究領域であるイギリスの政治思想史・社会思想史の文脈でたどっていきたいと思うようになったのだ。

能力不足ゆえある特定の時代の思想ですらなかなか全体的な像を描けていないが(それができたとき晴れて研究成果が本になるものと思っている)、このような問題関心で、これからも研究を続けていきたい。