リッチー(D.G. Ritchie)「ダーウィンとヘーゲル」を読む
以下の著作の表題論文。原著は1893年。
Darwin and Hegel, with Other Philosophical Studies
- 作者: Ritchie David George 1853-1903
- 出版社/メーカー: Hardpress Publishing
- 発売日: 2013/01/28
- メディア: ペーパーバック
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一読した感想:リッチーはイギリス観念論哲学の代表的論者の一人とされているが、実は通説からはみ出しまくりの、理解の難しい思想家だった。。。
たとえば、19世紀後半の社会進化論の文脈におけるダーウィンの位置づけについては、次のボウラーの議論などが一般的だろう。
私のいいたいことをまとめるとこうなる。ダーウィン学説は19世紀進化論の中心テーマと見るべきではな[い]。…[当時の]進化論的世界観は本質的に非ダーウィン的な概念枠の中で成り立っていたのである。これが「非ダーウィン革命」である。…[これは]古来の目的論的世界観を維持し近代化することに成功したので、非ダーウィン的であった。このように考えると、19世紀進化論についてはダーウィニズムを重視するのではなく、進化の「発展モデル」(developmental model)と呼ばれるものの出現こそ重視すべきであることがわかる。このモデルでは、進化が順序正しく、目的に向かうもので、通常は前進的なものであるとされている。…現代の生物学者が称賛するダーウィンの思考の非目的論的な側面は、当時の人々の大多数から無視され、拒否されたのである。(pp.10-11)
- 作者: ピーター・J.ボウラー,Peter J. Bowler,松永俊男
- 出版社/メーカー: 朝日新聞
- 発売日: 1992/03
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また、当時のイギリス倫理思想史における直観主義、功利主義、観念論の関係については、児玉聡氏によって次のように整理されている。
ヴィクトリア朝の終わりごろ(19世紀末)には、ヘーゲルを中心とするドイツ観念論に影響を受けたオックスフォード大学のグリーン(T.H. Green)やブラッドリー(F.H. Bradley)の思想が流行していた。…彼らもヒューウェルらの直観主義者と同様に、功利主義が道徳を幸福や快楽の問題に還元してしまうことを批判するとともに、社会制度や規則には理性あるいは神的な精神が体現されているとして、常識道徳の改善よりもその解明こそが道徳哲学の役割だと主張していた。(p.101)
- 作者: 児玉聡
- 出版社/メーカー: 勁草書房
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しかし、この論文で、リッチーは次のように論じている。
1.ダーウィンの自然選択説は目的論的だ。
2.ダーウィンの自然選択説はヘーゲル哲学と大きな親和性をもつ。
3.ヘーゲル&ダーウィンの見方は、倫理学の次元においては直観主義を退け、功利主義を正当化するものだ。
4.私自身の哲学・倫理学上の立場も、<ヘーゲル観念論−ダーウィン進化論−功利主義倫理学>の連関上に位置するものである。
いったいリッチーはどのようなロジックでこれらの諸点を正当化したのか。このテキストだけでは、正直完全には理解できなかった。彼の他の哲学・進化論・倫理学にもあたる必要があるだろう。