音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

セミナー報告しました

政治学研究科「政治理論・イデオロギーセンター」主催の定期セミナーでの報告が無事に終わりました。英語での報告としては、昨年の研究科内の院生発表会に続いて二回目。昨年は発表20分+質疑応答10分で、聴衆も理論・思想史系の人はほとんどいなかったので比較的気楽に出来たのですが、今回は発表45分+質疑応答45分、出席者は全員政治理論研究者の教員とPhD学生ということで、準備にかなり気合いを入れました。自分の力量ではメモだけで45分間英語でプレゼンするのは厳しいと判断しましたので、邪道ですが事前に送ったペーパーを短縮させた45分間分の読みあげ原稿5000語強を用意して、本番ではそれを読みあげました。結果的にこれが功を奏して、あとで出席者の方々から内容・英語ともにクリアで良い報告だったとお褒めの言葉を頂きました。

ただ、政治学研究科と哲学研究科のスタッフから成るセンターのメンバーは、ほぼ全員がジョン・ロールズ以降のいわゆる現代政治理論の研究者ばかりでして、私のように思想史に関心のある人は残念ながらほとんど(というか全く)いない状況です。そのためだと思うのですが、いつもは15〜20人ほどの出席者が、今回は10人と少なめだった事は少し残念でした。私の報告テーマは「バーナード・ボザンケに対するニューリベラルの批判を再検討する」というものだったのですが、ペーパーのタイトルを見た時点で「ボザンケって誰?」「ニューリベラルって?」「知らない、興味持てない」と思ってしまったのかもしれません。私としては「あまり知られていない過去の思想家にも、理論的に興味深い人がたくさんいて面白いよ!」と彼らに声を大にして言いたいところです。ただ、当日来て下さったロールズ研究者やヌスバウム研究者、コスモポリタニズム研究者、フェミニズム研究者の方々の反応も正直今イチでしたので、ニューリベラリズムやイギリス理想主義の理論的な面白さを伝える点で、私自身の力量がまだまだだと思い知らされました。これは今後の大きな課題です、

(ただし後で欠席していたコミュニタリアニズム研究者のPhD学生からは、「用事があって行けなかったごめん。ペーパー少し読んだけどとても面白いよ。次会った時いくつかコメントするね」との嬉しいメールがありました。ただ、やはりリベラルな人々よりもコミュニタリアンな人の方が、ボザンケに対する食いつきが良いのだなあと、彼のリベラルな側面に光を当てたい私としてはちょっと複雑な思いもありました。Gerald Gausが言うように*1、ボザンケの思想はやはりコミュニタリアン寄りと言えるのでしょうか…)

質疑応答も心配したほど難しい質問は出ず基本的なものがほとんどでしたので、英語は相変わらず難ありでしたが内容自体はしっかり応答することができました。一点、ボザンケの社会福祉論に関して、私はニューリベラルとの共通性を強調したのですが、聴衆の方々から理論的にこれこれこういう理由でやはり両者は大きく異なるのではないか、と批判的なコメントをいくつか頂きました。これまで自分では無意識に軽視してしまっていた部分でしたので、とても有難い指摘でした。

何はともあれ、長丁場の報告を大過なく終えることが出来てほっとしました。終了後に向かったパブで司会の先生がおごって下さったシェフィールド産エールビールの美味しかったこと!前日緊張であまり寝られなかったせいか一杯で酔ってしまい、家に帰ったら夕飯も食べずに寝てしまいました。

この日に報告した内容を基に、あと二週間以内で5月末の日本での学会報告用の原稿を仕上げなければなりません(字数自体もさらに切り詰めねば…)。まとまった休みを取れるのは、もう少し先のことになりそうです。


The New Liberalism: Reconciling Liberty and Community

The New Liberalism: Reconciling Liberty and Community

*1:Gerald Gaus, Bosanquet's communitarian defense of economic individualism: a lesson in the complexities of political theory (上の本に収録されてます)