音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

原発労働者に関する記事+加藤哲郎先生の言葉

来週月曜日のプレゼン用の原稿をようやく今日脱稿。みなさんに送ることができました。あとはプレゼン自体の準備・練習と、4月後半にロンドン、5月末に日本でそれぞれ行われる学会報告の原稿の準備を急いで行わなければなりません。あと三週間くらいは息をつくことができなさそうです。ただ今日は一休みして、ここ一週間ほど遠ざかってしまっていた、日本の震災関連の情報を追っていました。

ひとつ、とても印象に残った記事がありました。知り合いの研究者の方から紹介された、「日本の原発奴隷」というタイトルの、2003年6月のスペインの新聞記事です。「美浜の会」によって訳出されています。

記事は、被ばくの大きな危険性を伴う原発内部の作業のために、これまで何十年もの間、下請労働者やホームレス、非行少年といった人々が、電力会社や現場を統括するヤクザによって使い捨てにされてきた実態を明らかにしています。これを読むと、日本の便利で快適な生活が、こうした人々に対する差別的な社会構造と、彼らの犠牲と、私達の無知によって支えられてきたことが分かります。その上に築かれてきた「豊かな」日本社会とは、果たして享受するに値する社会なのでしょうか。記事は今回の原発問題とともに、こうした倫理的問いを私達に投げかけているように思います。

以下、記事の一部を引用します。

日本の原子力発電所における最も危険な仕事のために、下請け労働者、ホームレス、非行少年、放浪者や貧困者を募ることは、30年以上もの間、習慣的に行われてきた。そして、今日も続いている。慶応大学の物理学教授、藤田祐幸氏の調査によると、この間、700人から1000人の下請け労働者が亡くなり、さらに何千人もが癌にかかっている。

原発奴隷」は、日本で最も良く守られている秘密の一つである。いくつかの国内最大企業と・・・やくざが拘わる慣行について知る人はほとんどいない。やくざは、電力会社のために労働者を探し、選抜し、契約することを請負っている。「やくざが原発親方となるケースが相当数あります。日当は約3万円が相場なのに、彼等がそのうちの2万円をピンハネしている。労働者は危険作業とピンハネの二重の差別に泣いている」と写真家樋口健二氏は説明する。

通常、危険地帯には放射線測定器を持って近づくが、測定器は常に監督によって操作されている。時には、大量の放射線を浴びたことを知られ、他の労働者に替えられることを怖れて、ホームレス自身がその状況を隠すことがあっても不思議ではない。「放射線量が高くても、働けなくなることを怖れて、誰も口を開かないよ」。斉藤さんはそう話す。彼は、「原発でいろんな仕事」をしたことを認める、東京、上野公園のホームレスの一人である。

原発で働く訓練と知識が欠如しているため、頻繁に事故が起きる。そのような事故は、従業員が適切な指導をうけていれば防げたであろう。「誰も気にしていないようです。彼らが選ばれたのは、もしある日仕事から戻らなくても、彼らのことを尋ねる人など誰もいないからなのです。」と樋口氏は言う。

70年代以来、30万人以上の一時雇用労働者が日本の原発に募られてきたことを考えると、藤田教授と樋口氏は同じ質問をせざるをえない。「何人の犠牲者がこの間亡くなっただろうか。どれだけの人が、抗議もできずに死に瀕しているだろうか。裕福な日本社会が消費するエネルギーが、貧困者の犠牲に依存しているということが、いつまで許されるのだろうか」。

いま現在、福島原発で作業をしている人々のなかにも、このような経緯で連れてこられた人々がいるであろうことを考えると、彼らを単純に英雄視して済ませてしまうような報道には、偽善を感じざるを得ません。

もうひとつ紹介したいのは、政治学者の加藤哲郎先生のホームページでの言葉です。滞在先のメキシコ、アメリカで目にした海外メディアが、震災の被害に大きな同情・共感を寄せてくれた一方で、原発問題に関しては、経済利害と保身の優先が垣間見える日本政府と東京電力の消極的な姿勢に対して批判的な報道をしていたと紹介されています。

日本に帰国した先生の今現在の思いを綴った箇所が、特に印象的です。

この3週間の新聞にもまだ目を通しておらず、何よりも初めて大画面で見る東北地方の被災者たちの映像・声に圧倒されて、悲しみと怒りを表現する言葉が、うまく出てきません。怒りは、この膨大ないのちの喪失と生き残った人々の救援を前に、どうやら福島原発処理の対応にのみ力を注ぎ失策を繰り返してきた日本政府、そうした政府を日本一の政治資金供給源として支え手なずけてきた電力会社に向けられますが、同時に、そうした政治を許してきた近代日本の「民主主義」の内部切開の必要を痛感します。

加藤先生の最後の言葉にも示されているように、今回の原発問題がきっかけとなり、戦後日本政治史における経済大国化の論理と過程が、改めて根本から問い直されることを願います。僕自身もこれまでの無知を反省して、勉強していこうと思いました。


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戦後日本政治史 (講談社学術文庫)

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追記(10/04/2011):上の「原発奴隷」に関する記事内容と大きく重なるドキュメンタリー映像を見つけました。イギリスのChannel4による1995年の番組で、記事内で紹介されている写真家樋口健二氏がナレーションを務めています。「隠された被爆労働〜日本の原発労働者」 (YouTubeでも見られます。)