音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

NHKスペシャル「介護保険が「使えない」―10年目の検証―」


http://www.nhk.or.jp/special/onair/090426.html


ショートステイを利用したくともサービス供給が不十分なために利用できない家族介護者、高額な介護サービス利用料のために辞職せざるを得ない家族介護者、認知症のために必要なサービスを申請できない独居高齢者、認知症高齢者をサポートすべき地域包括支援センターの人員不足(5人の職員で6000人の高齢者を担当!)など、サービス供給者、サービス利用者、家族介護者それぞれの抱える問題が浮き彫りにされていた。どのケースも、「サービス需要があるところに事業者は自然と参入する」「家族を介護から解放する」、「ひとり暮らしで安心して生活できる」といった介護保険制度の当初の理念が、現実によって裏切られている様子をまざまざと映し出していた。


複雑に問題が絡み合っているのは明らかだが、見ていて思ったことは、とりあえず制度を支えているお金の量が絶対的に不足しているということだ。国からの介護報酬が少ないから採算の取れない事業になかなか業者が参入しない、予算不足から地域包括支援センターの人員が不足する、給付費が少ないために介護者が辞職したりサービスを削らなければならない、等々。これらの問題は、理論的には、介護報酬や介護給付費をそれぞれ増やすことで改善されるはずだ。もちろんそのためには予算を全体的に増やさなければならないだろう。保険料を一律に上げるべきなのか、それとも現行の40歳以上という被保険者をより若年層へと拡大すべきなのだろうか。あるいは国庫や市町村の負担を増やすべきなのだろうか?


これらは介護保険財政の技術的な問題とも関わってくるだろうが、この点に関して気になるのは、伊藤周平氏の次の指摘である。

介護保険料は、所得段階別とはいえ、定額保険料を基本としているため、逆進性が強く、低所得者ほど負担が重くなっている。(p.290)


ここで伊藤氏は問題点を指摘するのみでその具体的な論証は行っていないが、もしもこの指摘が正しいのであれば、介護保険制度は公平性の面で大きな問題があると言える。保険料をより所得比例的あるいは累進的なものにすれば、公平性の担保と歳入状況の改善を共に見込めるのではないだろうか。この辺、介護保険財政に関する分かりやすい解説書などがあれば良いのだが。。。


権利・市場・社会保障―生存権の危機から再構築へ

権利・市場・社会保障―生存権の危機から再構築へ