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某大学教員の日記

イギリス社会史の本を安くGET!

Private Lives, Public Spirit: Britain: 1870-1914 (Social Hist of Britain)

Private Lives, Public Spirit: Britain: 1870-1914 (Social Hist of Britain)


今日何気なく入った神保町の洋書屋さんで発見した。大学の先輩に勧められて、ずっと気になっていた本だ。普通に注文すると3000円くらいかかる本が、800円で手に入って大満足。タイトルは『私的生活と公的精神:イギリス1870年−1914年』って感じだろうか。実際に邦訳、出版される時はもう少し売れそうな、うまい訳になるんだろうな笑。


作者のジョゼ・ハリス氏は、戦後イギリス福祉国家の青写真を作ったウィリアム・ベヴァリッジの伝記で有名だが、この本で扱っているのは、第一次大戦以前のイギリス社会の様子だ。当時の人々の健康状態、家族の様子、経済状況、宗教、政治意識のあり方などを、社会史家らしい細やかな筆さばきで、鮮やかに描き出すとのこと。


序章を少し読んで気がついたのは、社会学者の多くがすんなりと受け入れてしまいがちな議論に対して、本書ではいくつかの点で待ったをかけていることだ。例えば社会学者であれば、「階級意識の高まり」や、「国家による経済・社会政策への介入の高まり」といった点に対して、これらはこの時代のイギリス社会を分析する際の、最重要ポイントだと考えがちである。しかしそうした見方に対してハリスは、「大筋では正しいかもしれないが、事実は必ずしもそんなにすっきりとしたものではない」と述べ、いくつか例を挙げて反証する。


ハリス氏のこうした慎重な態度は、社会学者が複雑な現実を何とか「理論化」しようとする欲求を持ちがちであるのに対して、歴史家は現実の複雑さそのものをできるだけ忠実に描き出そうとする欲求を持つという、現実に対する両者のアプローチの仕方の違いに由来しているようにも思える。とりわけ社会史家などは、歴史通念や既存の社会理論といったものに対して、批判的な態度を取る傾向が強いような気がする。


両者のアプローチを統合させるぞ!などということはおいそれと言うべきでないと思うが、私自身はどちらかと言えば社会学畑出身なので、自分の考えが「理論」の名の下に単純化、硬直化、果てはドグマ化しないように、こういうハリスさんの本なども読んで、歴史感覚を身につけていきたいと思う。まあ歴史本は、単純に読んでて面白いしね。