音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

イギリスの社会思想とかつれづれ

今日は市の図書館に行って勉強しようと思ったが、台風のような天気だったので終日在宅。

Peter Clarkeというイギリスの歴史家の、"Liberals and Social Democrats"(1978)という本を読んでいる。訳すと『自由主義者社会民主主義者』と言ったところだろうか。19-20世紀転換期の、イギリスの錯綜した自由主義の思想状況を、4人の思想家にフォーカスを当てつつ丁寧に追っている。第3章の「帝国主義」の章に入って、がぜん面白くなってきた。


ちなみにこのクラーク氏の研究には、『イギリス現代史1900-2000』(2004,名古屋大学出版会)という大著がある。これが政治、経済から社会、文化まで、ものすごく視野の広いオールマイティな歴史本で、読んだら現代イギリスオタク(しかも超ハイレベルな!)になれること間違いなし。私はまだ初めの10年間分くらいしか読んでない。

イギリス現代史―1900-2000

イギリス現代史―1900-2000


自由主義者社会民主主義者』に話を戻すと、この時代のイギリスは、一方では国や地方自治体による福祉政策をめぐって、またもう一方ではボーア戦争に代表される帝国主義戦争をめぐって、それぞれ政治的・思想的対立が激化していた。ごく単純化すれば、公的福祉政策(富の再分配や、生産手段国有化などの経済政策も含む)に賛成か反対か、また帝国主義戦争に賛成か反対か、によって、思想的立場は4つに分裂していた。


ここで「公的福祉政策や経済政策には賛成、だけど戦争には反対」、という1つの立場を考えてみると、マルクス主義に代表される国際社会主義が思い起こされる。でも当時のイギリスでは、そうした勢力はきわめて弱かったようだ。私の先生もどっかで「イギリスのマルクス主義思想の発展は1930年代以降に限られる」みたいなことを書いていた。まあ必ずしも議論を1930年代以降に限定する必要はないようだが、理論的影響力という点では、確かに20世紀初期のイギリス・マルクス主義はとても未熟だったようだ。


なのでイギリスで「福祉政策賛成&戦争反対」の主導的立場を取ったのは、マルクス主義ではなく「新自由主義」と呼ばれる自由主義の一派だった。この辺は、いかにもベンサムジョン・ステュアート・ミルが出てきた国といった感じだ。しかしここでいくつか疑問が浮かんでくる。それは例えば、19世紀終盤の「社会秩序の危機の時代」の中で、上でも書いたが何故イギリスではマルクス主義がほとんど根付かなかったのか、またその一方で、「新自由主義」思想はどこまで現実的影響力を持ったのか、さらにその思想の限界はどこにあったか、といった一連の疑問だ。これらは皆、問いがシンプルなだけに、厳密に答えを出すのはとても難しい。でもこういったことを考えていくのは、イギリスだけでなく、いまの日本の思想状況を考える上でも役に立つ、ような気がする。まだうまく言えないけど。



全然話は変わるが、安倍新内閣の閣僚の顔ぶれに友人が憤っていたので、どれどれと思って新聞を見てみた。うーん確かに。。。女性がたったの2人ですか。しかも少子化やら共同参画やらの担当大臣が高市早苗氏って…。今に始まったことではないが、この保守っぷりには先が思いやられます。ていうかこの顔ぶれで、自民党は果たして女性票を集めることができるのか?まあ投票行動にはいろいろな要因が働くんだろうけど。



追記:上で「新自由主義」と書いたところに、はてなの解説リンクが貼られてたけど、内容は案の定、「レーガノミクス」や「サッチャリズム」のみを指していた。20世紀初頭イギリスの「新自由主義」も、もう少し注目されて良い思想潮流だと思う。英語ではレーガン-サッチャーのNeo-liberalismに対して、こちらはNew Liberalismと、一応区別されているようだ。