ロンドンの学会に参加してきました
4月19日から3日間、英国政治学会の年次大会に参加するため、ロンドンに行ってきました。初日は電車が遅れたために行きたかったセッションに間に合わず、また会場近くにあったはずの予約したホテルがネットでの情報と違ってかなり離れた場所にあったり(ありえん…)、ホテル自体もテレビが壊れてたりシャワーのお湯が出なかったりと(これで一泊55ポンド=約8000円なのです!)、散々な一日となってしまいました。ただ2日目にあった肝心の私の報告が何とか大きな失敗もなく済んで、また以下に書くように、大変興味深い方々との出会いもあったので、終わってみれば楽しい滞在となりました。
今回の報告テーマは、去年夏にケンブリッジで日本人研究者数名の前で報告させて頂き、その後、論文にもまとめた「ホブハウスの「調和」と「権利」概念について」でした。よって内容的にはしっかり出来上がっていたものだったのですが、今回は英語での初めての学会報告でしたので、前回のセミナー報告の時と同じく、「原稿読み上げ作戦」を実行しました。私の報告は3つほどあった「イギリス理想主義」パネルの1つに組み入れられたのですが、報告者が私の他にはダラム大でT.H.グリーンを研究をしているPhDの院生さんだけだったためか、収容15人程度のかなり小さい部屋をあてがわれました。ただ、収容人数いっぱいの数の方々が聴きにきて下さったため、有難かったのですがかなり圧迫感も感じて、緊張してしまいました(特に私の目の前に座っていた先生が、渡したレジュメには目もくれず報告の間中じっと私の方を見つめてきたため、とてもどぎまぎしました…)。
ともあれ、さすがは理想主義の専門家が集まったパネル、頂いたコメントはどれも非常に有益なものばかりでした。ハル大のコノリー教授からはホブハウスの「内的調和」概念を構成する「理性」と「感情」の緊張関係について指摘され、それを引き継いだカーディフ大のバウチャー教授からは「社会的調和」の有無を認識しうる主体の問題について、さらにダラム大のディモヴァ・クックソン博士からは、ホブハウスの社会改革論と形而上学的前提の矛盾について指摘され、いずれも今後の研究に当たって大きな理論的宿題を頂いたという感じでした。それぞれの批判的なコメントに対してうまくディフェンスできたのか、はなはだ心もと無かったのですが、終わった後に私の指導教官とハル大のタイラー博士が「とても良い報告で楽しめたよ、グッジョブ」と言って下さって、少し安心出来ました。タイラー博士からは、現在グリーンやホブハウスを参照する労働党関係の政治家、ジャーナリストが増えているとの有益な情報も頂きました。
学会公式の晩餐会は別料金約7000円が必要だったのでこれは断念して*1、代わりに入ったソーホー中華街のレストランで、これまた面白い出会いがありました。私の前のテーブルにいたイギリスに着いたばかりだという中年男性二人組がフレンドリーに話しかけてきて、そこから食事をしながらテーブルごしにお話をすることに。カナダ人のジャーナリストとネイティブ・アメリカンの作家だと自己紹介をされました。何でもそのネイティブ・アメリカンの方の曽祖父が、第一次大戦時にイギリス軍に徴兵され、戦時中に行方不明になったと当時イギリス政府から家族に知らされたらしいのですが、実は当時ヨーロッパで大流行していたスペイン風邪にかかって死亡したこと、イギリス政府は今に至るまで一切知らせてくれなかったが、その方のお墓がエディンバラにあるということを、ひ孫である彼が10年ほど前に突き止めたのだそうです。
お二人はこれからの数週間のイギリス滞在のなかで、曽祖父のお墓を訪ねた上で、関係者に話を聞いたり資料にあたったりして、第一次大戦当時の(多分にレイシズム混じりの)イギリス政府の外国人徴兵のあり方についてルポを書くつもりなのだそうです。彼らの語り口からは、当時の大英帝国や、一部の人の利害しか代表しない現実の政治権力一般に対する深い怒りが感じられましたが、とても柔和な方々で、日本の震災と原発問題、東電と経産省やマスコミとの癒着などについての私の話にも熱心に耳を傾けて下さり、温かい励ましの言葉を下さいました。
別れる時に、ネイティブ・アメリカンの作家の方のホームページも教えてもらいました。(↓)
Native Veterans
こういう出会いがある辺り、さすがはロンドンです。ホテルは高いし質も良くないけど、世界中から色々な面白い人々が集まります。この国際性こそ、この都市に独特のダイナミズムと魅力を与えているのでしょう。その夜、ホテルのそばにあったパブでレアル・マドリード対バルセロナ戦を観ながら飲んだギネス・ビールも、解放感のためかとても美味しく感じられたのでした。
*1:すでに学会参加費だけで115ポンド=16000円もかかっていました。部分的にシェフィールド大学から補助を受けることが出来たとは言え、なぜイギリスの学会はこんなに高価なのでしょう…