音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

博士課程一年目を終えて


博士課程の1年目が終了。研究成果としては大したものは残らなかったが、これからの自分の人生をどう生きるか、その優先順位を決められたという意味で、とても充実した1年だった。


去年の夏から秋にかけて、これからの研究の見込みや将来の仕事の展望を考えたり、周囲の人たちに勧められたりした結果、イギリスの博士課程への留学を目指すようになった。奨学金の申請なども考えると時間がなかったため、冬までひたすら出願の準備に励んだ。だけど願書を出して入学許可が出たあと、本当にそれが自分の選ぶべき道なのか、考え直さなければいけない状況に陥った。これまで長い時間をかけて育んできたパートナーとの親密な関係性を壊してまで、本当に三年間ものあいだ、留学するべきなのか。良い研究者になりたいのならそれは必要な道だと、色々な人に言われた。だけど悩んだ末、それを選ぶことはやめた。自分にとっての幸せは研究だけにあるのではない、という結論に至った。


外国の思想や歴史を社会科学として勉強していくにあたって、日本ですべきこと。それは、いまここの日本社会の現実から目をそらさず、そこから感じ取ったことを、自分の研究にとっての問題関心とすることだ。現実の複雑さとそこに孕まれる矛盾を知らなければ、思想研究は空理空論へ、歴史研究はアナクロニズムへと、それぞれ陥ってしまう。「何のために自分がこの研究をしているのか、絶えず問い返すこと」。学部時代に出会った社会学者アルベルト・メルッチの言葉を、最近、特に噛みしめている。