音楽友に、今日も安眠

某大学教員の日記

「麦の穂をゆらす風」を観た。

ゼミ発表も無事終わったので、渋谷に「麦の穂をゆらす風」を観にいった。
期待通り、というかそれ以上の衝撃だった。ケン・ローチ、やっぱりすごいよ。


とても悲しい話なのに、この映画は泣かせて「良い映画だったね」、で終わりにさせない。
どうしてあんな結末になってしまったのかを、私たちに徹底的に考えさせるのだ。
もちろん答えは簡単にでない。でも映画を観た私達は、デミアンたちの辿った悲劇が、
イギリスがアイルランドに対して行ってきた、支配と搾取と暴力の、
長く暗い歴史によって引き起こされたものだということを知る。


この映画で描かれたのと同じ光景が、今も中東、アフリカ、アジアなど、至るところで見られる。
それぞれの悲劇の背後には、同じような民族と国家と階級をめぐる、多くの場合には隠された、
支配と従属の歴史の積み重ねがあるのだろう。私たちの生きる時代がどのようなものかを知るために、
過去の歴史に目を向けることの大切さを、ケン・ローチはいつも教えてくれる。
こういう監督が正当に評価されているのを知ると、まだまだ世の中、捨てたもんじゃないな、と思う。


帰りがけに買ったケン・ローチのインタビュー本での、ローチ監督の次の言葉が印象的だった。
「人々が現在において政治的動乱を経験するとき、それはいつもどこからともなく生じるように見える。
しかしながら、それ以前に起こっていた長い闘争がいつもあるんだ。だから過去に起こったことを
知っているなら、私たちは今起こっていることをよりよくわかることができるわけだ。」
(『映画作家が自身を語る ケン・ローチ』p.97)

ケン・ローチ (映画作家が自身を語る)

ケン・ローチ (映画作家が自身を語る)


以前書いた関連記事:
ケン・ローチ監督作品「麦の穂をゆらす風」:朝日新聞夕刊より」 http://d.hatena.ne.jp/Sillitoe/20061114
ケン・ローチ監督、パルムドール賞受賞!」http://d.hatena.ne.jp/Sillitoe/20060529